悪意の遺棄とは?離婚して高額な慰謝料をもらうための方法と証拠の集め方

わたしのかつての夫は、1年のうちの3分の1は家にいませんでした。
もちろん仕事での単身赴任や出張、旅行などではなく、気が向いたときに、ひとりで自由気ままに過ごしたいから、会社がお休みの日は。どこへ行くとも言わずに外出や外泊をしていました。
このように、「勝手に家を出ていき帰ってこない」「家庭にお金を入れてくれない」ことなどは、「悪意の遺棄」と言われ、離婚の理由になります。
そして、離婚する際には、慰謝料を請求することも可能になります。
そこで今回は、
- 悪意の遺棄とは、 具体的にどのような行為をいうのか
- 悪意の遺棄があった場合に、どれくらいの慰謝料がもらえるのか
- 悪意の遺棄を証明するためには、どのような証拠を集めておくとよいか
を具体例とともにご紹介していきます。
目次
悪意の遺棄とは?
「悪意の遺棄」の悪意とは、「夫婦関係の破綻をもくろんでいたり、夫婦関係が破綻してかまわないという思い」とされ、遺棄とは「正当な理由もなく、民法で規定されている夫婦の同居、協力、扶助の義務を怠ること」をいいます。
悪意の遺棄には前提になる夫婦の義務がある
民法には、「夫婦は同居し、互いに協力、扶助し合わなければならない」という規定があります。
夫婦である以上、同居義務(一緒に住まなければならない)、協力義務(お互いに協力しなければならない)、扶助義務(お互いに助け合わなければならない)という3つの義務があります。
同居義務
夫婦は、一緒に住まなければならないという義務です。
つまり、別居をしてはいけないということです。
これには法的な強制力はありません。
ただし、強制力は無くても正当な理由も無く同居をしないのは離婚原因となります。
一方的に家を出て別居してしまったり、結婚後に正当な理由もなく同居を拒んだりした場合です。
ですから、単身赴任や出張、一時的な親の介護などで留守にすることは、これには当てはまりません。
協力義務
夫婦はお互いに協力して生活すべきであるという義務です。
これにも、協力しないことでの法的な強制力はありません。
扶助義務
夫婦はお互いに扶助し合うべきであるという義務です。
結婚している以上は、夫婦の一方が助けを必要とするような場合は、もう片方が自分と同等の生活を送れるように援助しなければなりません。
悪意の遺棄にあたる具体的な行動は?
浮気相手と同棲していて、家に帰ってこない
浮気相手の家で生活し、全く帰ってこないケースです。
この場合は、離婚理由としては、悪意の遺棄のほかにも、不倫にも該当します。
特別な理由もなく、別の部屋を借りて住んでいる
身勝手な別居と考えられますが、同時に夫婦の家があるのに家賃も無駄にしているということで、協力義務にも違反していると考えられます。
理由もなく同居を拒否する
結婚しても、同居を拒否し続けたり、実家に帰ったまま帰ってこなかったりするケースです。
なんとなく一緒にいたくないからなどの理由は、基本的には認められません。
配偶者を家から追い出す
相手に暴力を振るったりして追い出すケースです。
頻繁に家出を繰り返す
家出を繰り返しても何も解決しないとも思えますが、家出をした結果、家庭や仕事に影響を与えてしまうようでは悪意の遺棄になってしまいます。
働いているのに家庭に生活費を入れない
悪意の遺棄に該当する行為の中で、一番多い離婚理由です。
結婚や出産で仕事を辞めてしまっている専業主婦は、生活費を受け取れなかったら、生活できませんね。
単身赴任中の夫が生活費を送らない場合も同様です。
健康で働ける状態であるのに働かない
健康で働けるにもかかわらず、仕事をせずに生活費を入れないケースです。
子育てや家事、家庭生活に一切かかわらない
子育てや家事は妻だけがやらなくてはならないものではないはずです。
全く手伝わないことで妻がストレスを感じるようであるなら、悪意の遺棄となります。
悪意の遺棄とはならない具体的な行動は?
次のような場合は、悪意の遺棄にはなりません。
- 仕事の出張、転勤による単身赴任による別居
- 配偶者の暴力や酒乱などに耐えかねての別居
- 夫婦関係がこじれてしまっている場合の冷却期間を置くための別居
- 夫婦関係が破綻した後の別居
- 子供の学校等の教育上必要な別居
- 病気の治療のための別居
悪意の遺棄の具体的な事例
①浦和地裁昭和60年11月29日判決
夫は、上京するに際し、妻に対し、出発予定も行先も告げず、今後の生活方針について何ら相談することがなかったのであり、妻が3人の幼い子供を抱え、父親のいない生活を余儀なくされることを熟知しながら、敢えて夫婦、家族としての共同生活を放棄し、独断で上京に踏み切ったと認定し、悪意に遺棄にあたるとしました。(判例タイムズ615号96頁より)
②大阪地裁昭和43年6月27日判決
夫が、余りに多い出張、外泊など妻ら家族を顧みない行動により、妻に対する夫としての同居協力扶助の義務を十分に尽さなかったことは「悪意の遺棄」にあたるとするにはやや足りないとしましたが、「婚姻を継続し難い重大事由」に当たるとして妻からの離婚請求を認めました。(判例時報533号56頁より)
悪意の遺棄と別居との関係
離婚をすることを前提で別居する方は多いです。
しかし、別居する前にきちんと夫婦間で話し合った上で、合意のもと別居をすることが大事です。
別居をすることで、同居、協力義務を果たせなくなりますから、黙って一方的に別居を始めることで「悪意の遺棄」と相手から言われかねません。
また、上記の事例にあるように、「悪意の遺棄」にまではならなくても、同居、協力、扶助義務に違反があることで、「婚姻を継続しがたい重大な事由」に該当すると認めた判例もあります。
別居期間については、判例では、2ヶ月間足らずで「悪意の遺棄」にあたるとしたものもありますので、別居期間の長さより、配偶者に対する遺棄の意思がどの程度であったかに重点が置かれているようです。
悪意の遺棄で離婚するために集める証拠は?
配偶者からの悪意の遺棄が原因で離婚したい場合は、それを証明しなければなりません。
どのような証拠を集めれば、悪意の遺棄を証明できるのでしょうか。
同居の義務を果たしていない場合
以下のような証拠を集めてください。
- 別居がわかる書類(賃貸借契約書など)
- 別居開始の時期がわかる日記
- 一方的に出ていったことがわかる記録(メモ、メール、LINEなど)
- 浮気の場合は、相手の家の住所や配偶者が相手の家に出入りする写真 など
協力・扶助の義務を果たしていない場合
- 生活費の振り込みが途絶えたとわかる通帳
- 家庭の収入・支出がわかる家計簿
- 協力・扶助の義務を果たしていないことを記した日記 など
証拠が多ければ多いほど、義務を果たしていないことを証明しやすくなるので、できるだけたくさん集めておきましょう。
悪意の遺棄で請求できる慰謝料の相場
悪意の遺棄で請求できる慰謝料は、数十万円から100万円です。
同居、協力、扶助義務にどの程度反していたか、「行為の悪質性」や「義務を果たさない理由」、「結婚生活の長さ」などにより、金額には差があります。
悪意の遺棄が認められる事は少ない
ここまで悪意の遺棄について説明してきましたが、法律上は悪意の遺棄にあたるものでも、実際の裁判では悪意の遺棄が認められることは少ないのが実情です。
「生活費を渡さない」「子育てや家事に一切かかわらない」などのケースは、「悪意の遺棄」として認められるのではなく、「婚姻を継続しがたい重大な事由」と判断されることが多いようです。
悪意の遺棄での慰謝料の決め方や手順については、こちらに詳細に解説していますのでご覧くださいね。
悪意の遺棄のまとめ
今回は、
- 悪意の遺棄とは 具体的にどのような行為をいうのか
- 悪意の遺棄があった場合にどれくらいの慰謝料がもらえるのか
- 悪意の遺棄を証明するためには、どのような証拠を集めておくとよいか
をお伝えしました。
「悪意の遺棄」を理由として裁判所で離婚を認めてもらうことはなかなか難しいのですが、同じような意味合いで「婚姻を継続しがたい重大な事由」で認めてもらうことは可能ですので、いずれにしても、しっかりと証拠を集めておくことが大切です。